ワイズロードオンラインの石澤です。
ある程度長くロードバイクに乗っている方、しばらくぶりにロードバイクの趣味を再開した方、
ここ数年でこんな疑問が出たことはないでしょうか。
「タイヤ、太くなってね?」
もちろんこれは「家にある自転車のタイヤがどんどん膨らんでいる」という話ではありません。
(もし本当に膨らんできていたら、すぐに空気を抜いてください。爆発するかも!?)
年が下るにつれて、ロードバイクのタイヤの標準的な幅がどんどん広がっている、という意味です。
実際に、タイヤの幅のトレンドは太くなり続けています。
でもなぜそんなことになっているのか?
きょうはそちらを解説してみましょう。
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昔のタイヤは細かった
四半世紀ほど前、ちょうど私が輪界(自転車業界のことを身内ではこのように呼びます)に足を踏み入れた当時、ロードバイクのタイヤ幅は23Cが一般的でした。
当時はタイヤは細ければ細いほど走りが軽いとされていたため、最低限の安定性とショック吸収性を確保できるサイズである23Cが、ロードバイクのタイヤの主流だったのです。
・・・
こう書くと、一部の人は驚きをもって迎え入れるのではないでしょうか?
細いほど走りが軽いと「されていた」!???
と。
そう。実はタイヤが細いほど走りが軽いというのは、既に過去の考えになっているのです。
タイヤメーカーのCONTINENTALが言うには、25C/94psiのタイヤと23C/123psiのタイヤは同じ転がり抵抗だそうです。
ではなぜ昔は、細い方が走りが軽いとされていたのでしょうか。
これには、いくつかのからくりがあるのです。
① 細い方が接地面積が狭い
転がり抵抗に大きく影響を与えるのが接地面積です。
細いタイヤの方が接地面積が少ないので、転がり抵抗が軽い・・・というのがそれまでの「常識」だったのですが、実際のタイヤの接地面積を計測する技術が発達した結果、タイヤの空気圧が同じなら
太くても細くても接地面積はほぼ変わらない
という事実が検証されたのです。
さらに同じ接地面積でも、
① 細いタイヤの接地形状は幅が狭く、前後に長い
② 太いタイヤの接地形状は幅が広く、前後に短い
ということが明らかになりました。さらに、同じ接地形状でも、横に広い方がタイヤの実質的なひずみ量が小さく、より転がり抵抗が軽いことが判明したのです。
実際には太いタイヤのほうが空気圧を低く運用するのですが、それでも太いタイヤが転がりの面では優れているのです。
② 細い方が空気抵抗が低い
直感的に、細いタイヤの方が正面から見た時のボリューム(全面投影面積)が少なく、空気抵抗が低そうに思えますよね。
はい。そうです。
・・・
「えっ?じゃあ細いタイヤのほうがいいじゃん」
と思う方がほとんどでしょう。
これにもからくりがあります。
昔の計測技術で測ると、確かに細いタイヤの方が空気抵抗は低いです。
・・・正面から風が吹いている場合は。
ホイール周辺の空気抵抗は、ホイールとタイヤの形状をセットにして考える必要があります。
ホイールはリムハイトが高い方が空気抵抗が低くなります。
(ちなみにこれは、「リムハイトが高いから」というよりも、「スポークを短くできるから」というのが大きな理由です。)
リムハイトの高いホイールは横風をかき乱し、空気の渦を作ってしまうのですが、これはある程度幅の太いリム&タイヤのほうが少なく抑えられます(この横風耐性もリムとタイヤの形状によって大きく前後します。近年のエアロホイールはほとんどが横風に対する挙動も含めて設計されています)。
「横風ってそんなに吹くの?」疑問に思うでしょうが、実地で吹く風を検証した結果、真正面から風が吹いているということは実はほとんどなく、むしろ自転車に対しては斜めから風が吹きつける環境の方が多いことが明らかになったのです。
空気抵抗は自転車にかかる抵抗の中でも一番影響が大きい部分です。
現実のあらゆる環境で空気抵抗を下げるために、タイヤとリムはセットで太くなっているのですね。
タイヤは太くなり続けます
様々な理由から、タイヤは細い方が走りが軽いわけではないことが分かってきた現代。
むしろ太い方が抵抗が少ないことが分かった以上、タイヤはどんどん太くなっていきます。
もちろん太いタイヤの方が乗り心地が良く、路面の凹凸に対しても対処が容易です。
20年前は23Cだったタイヤの標準幅は、25C,28Cとどんどん太くなり、いまや30Cもごく普通の選択肢となっています。
逆に、細いタイヤは次々と市場から姿を消しつつあります。
お持ちの車体が細いタイヤしか装着できないのであれば、お早めにタイヤのストックを確保していただいた方が良いかもしれませんね・・・。