新宿本館で主にMTBの組立やカスタム、修理等のテック作業を担当しているmattsです。改めまして。
さて、久しぶりにテックのトピックス。
ここ数年、年に何回か当社主催のワイズカップや、GSRカップなどのイベントで現地でテックブースで参加者のバイクをチェックしたり、修理調整を行ったりしているのですが、今回ご紹介する内容のトラブルが結構多いと感じています。さらにそのトラブルに、オーナーさんが気づいていないことが多いのです。
そのトラブルというのは、
【ヘッドパーツのガタ】
です。
お店で納車をさせていただいた後に、オーナーさんがご自身でステム交換をしたり、スペーサーの入れ替えをしたり、フォーク交換やベアリングのメンテナンスをした際に、正しい手順で作業を行っていなかったり、部品の向きや順番を間違えたり、入れ忘れてしまったりすることで、ヘッドパーツが本来のスムーズでガタの無い状態を維持できないような状況になってしまっています。
今回は具体的に写真や図を使って分かりやすく解説してみようと思います。
現行のスポーツサイクルのその殆どが、【AHEAD】と呼ばれるタイプのヘッドの規格を採用しています。車体にベアリングを組み付ける方法などにより種類がいくつか分かれますが、基本的な構造はすべて同じで、下の図のような部品構成になっています。
かなり簡略化していますが、この様な構造です。真ん中のステアリングコラムがヘッドパーツ~ステムまで貫通しており、フレームとステアリングコラムの間にヘッドパーツが入ります。
さて、ガタの原因としては、このベアリング部分に十分な加圧がされておらず、部品が浮いてしまっている状態です。
僅かな隙間でも、各部品が密着していない事でガタに繋がりますし、そこから伸びるフォーク先端までの間にガタが増幅されます。なので、フロントブレーキをかけて車輪を固定した状態で車体を前後に揺すると、『カクカク』とした感覚がはっきりと分かります。
もちろんそのままの状態で乗るのはパーツを痛めます。ヘッドパーツはもちろんの事、最近多い、フレームに直接ベアリングが接触するタイプの『インテグラルタイプ』のヘッドを採用している車体では、そのガタをフレームが直接受け止めてしまう為、長期にわたりガタがある状態で乗車し続けるとフレームそのものを痛めてしまう可能性もあります。
また車体の挙動が安定しない為、ハンドリングやブレーキングも不安定になり、転倒などの事故につながる可能性もあります。
さて、ではガタが無いようにするにはどのように調整をすればいいのかというと・・・
先ほどの図の通り、ヘッドパーツの調整方法=ステム回りの部品の固定方法という事になります。
ガタが出ている殆どの場合、固定する手順を間違えている事が原因の大半かと思われます。。
正しい固定手順は以下の写真の通りです。
①のキャップボルトを締めこみ、ステム、スペーサーごと押し下げていき、
ヘッドパーツに充分に加圧を行う。
②ステムの固定ボルトを締めこんで固定する。
これだけです。
ですがこの手順を間違えると、しっかりベアリングに加圧がされず、ガタが出ます。ステムやヘッドキャップのシール(Oリング)、クサビ形の部品などの抵抗がある為、手で上から押し込んでも必要な加圧を得ることは難しいです。
また逆に①のボルトを締めすぎるとベアリングを加圧し過ぎてしまい、ヘッドの回転が重くなります。たいていのメーカーは4N・m前後のトルク指定ですが、実際は使うステムとコラムの組み合わせによっては摩擦抵抗などで、加圧が不十分になる事もあるので、締め込みながら回転の軽さ・重さと、ガタが無くなっているのを確認しながら作業を行います。
さて、ここからは、ご自身で部品の構成などを変えた場合に起こりうる事象です。
上記の方法で『正しく』組付けているのにガタが出る、という事がしばしばありますが、その場合は別の要因が考えられます。
これです。
この写真の下側の悪い例がそれです。(上については後程)
一見すると、しっかりコラムが届いており、問題ないように見えますが、この絶妙なギリギリを狙っているところが、残念ながら問題の原因です。
上側から加圧をするヘッドキャップの裏側を見ると、大抵部品がずれないような段差があります。
こんな感じです。(これはヘッドの王様・クリスキングのヘッドキャップ)。
ステムとステアリングコラムの落差 > ヘッドキャップの段差
となっていないと、ボルトをいくら締め込んでも、キャップがコラムに接触しているだけで、肝心のステムを押し込むことが出来ていません。
ごく僅かな差の場合、体感的にはちょうど良い感じで加圧されている感覚になるので、気づかない事が多いですが、実際走行してみるとガタが出ている、といことはよくあります。
もしギリギリっぽいな、と思った時は、ここをチェックしてみてください。
ステムを一旦固定した後に、その下にあるスペーサーやヘッドパーツの上側のキャップ部分を手で回してみてください。ステムと関係なくこの部分だけが回ってしまうようであれば、加圧が足りません。十分に加圧されている場合はステムとコラム一緒にしか回りません。(※一部例外として、フォークの固定方法が特殊なCannondaleのLeftyフォークがあります)
ということで、適度な加圧を行う為、先ほどのようにツライチに近くなってしまっている場合はスペーサーを足して、加圧して下がる分を確保します。スペーサーは1番薄い物で2mmなのですが、ステムの上下どちらに入れても構いません。
が、先ほどの写真の上段のようにコラムがあまりにもステムの上面から下にいってしまう程入れてしまうのはまたアウトです。
ということで、その辺をまとめた図がこちら。
3番目のように長すぎる方も時々見かけますが、これもアウトです。
コラム内部が空洞の部分をステムで締めてしまうと圧縮に耐えられずに変形を起こします。カーボンコラムでは割れたりしますので特に危険です。金属製のコラムの場合は変形の危険性はあまりありませんが、ステム上部に突出している部分が転倒時などにライダーの身体にぶつかり、怪我をすることもありますので、適切な長さにカットしましょう。
さて、この他にもやりがちなミスがあります。こちらは車体からフォークを抜いたり、ベアリング部分を外してメンテナンスをした後に向きを間違えて組んでしまうパターンです。
これはベアリングの球がむき出しになっているタイプでよく間違えてしまうパターンです。
どっち向きでも収まってしまうのですが、実際には球が適切に当たっていない為にそのまま使用するとあっという間に破損します。
このベアリングのリテーナーと呼ばれるパーツは裏表でこんな形状になっていますので、まず分解するときに、上下それぞれどっち向きに入っていたかをしっかり覚えておきましょう。忘れそうなときは写真を取っておくと良いですね。
また、中級グレード以上の車体では、シールドベアリングタイプが多いですが、こちらも同様に裏表があります。
ただしこちらの場合は、接触面が明確に斜めになっている形状なので、逆向きに入れると安定感が無かったりしっかり収まらないので間違えることはそうそうないかと思いますが・・・
あとは再度組み付けの際に、入っていた部品の順番を間違えたり、入れ忘れてしまったりというのもよく有ります。
それにより、やはり十分な加圧が出来なかったり、ベアリングが他の部品と接触してしまいガタになったりします。この場合は、早い段階で部品の破損に繋がることが多く、ヘッドパーツまるごとの交換が必要になる事もありますのでご注意ください!
という感じで少し長くなりましたが、ヘッドパーツの調整の注意点をお送りしました。参考になりましたでしょうか。
ワイズロードでは、Youtubeに様々な部品の調整方法などを分かりやすく解説した動画もUPしております。
今回のヘッドパーツ・ステム関連の動画はこちらです。
今回の解説ページと合わせて見ていただけるとかなり分かりやすいかと思いますので是非!
ヘッドパーツはハブやBBと同じく車体にかかる力を受け止める、軸受け構造の1つです。他の部分ほどグルグル開店する場所ではないので、つい疎かにしてしまいがちですが、走行時には結構大きな力を受け止めている大事な部分です。是非定期的なメンテナンスと共に、正しい組付けを行って、安全に快適に乗車していただければと思います!
また、より高精度な仕上がりを求めるなら、ヘッドパーツ交換の際に、フレームやフォークのフェイシング処理もお勧めします。
ヘッドパーツの部品の圧入箇所を専用の刃物で削って水平と平行を出す処理です。これを行う事で、スムーズな動きはもちろん、耐久性も向上しますので、高品質なヘッドパーツへの交換の際は是非。
ということで、自転車の『かなめ』ともいえるヘッドパーツ関連のテック・トピックスをお送りしました!長文となりましたが、ご自身での調整の際に是非参考にしてみてください。
もちろん自分でやったけど上手く行かないよ~!という方はお店までお持ちくださいね!
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