今回PINARELLO JAPAN 様のご厚意で、2023年に刷新されたPINARELLOのロードラインナップを試乗させていただきました。関係各位の皆様ありがとうございます。
メーカーサイト、スポーツサイクル系メディアでも発表されご存じの方も多く、気になる方も多いのではないでしょうか。
PINARELLO Fはピュアレーシングライン、PINARELLO Xは、自分のライドスタイルにはピュアレーサーは当てはまらないと考えるファンライダーに向けたモデルという感じでしょうか。
まずはカーボン素材をFシリーズ、Xシリーズと2022モデルと比較してみました。
2022 PRINCE 東レ T700UD → 2023 F5 東レ T700UD
2022 PRINCE FX 東レ T900UD → 2023 F7/F9 東レ T900UD
2022 PARIS 東レ T600UD → 2023 X3 東レ T600UD
2022モデルから今回刷新した2023モデルをの引継ぎは上記の感じです。
カーボン素材を引き継いでいるので判り易いですね。
次にジオメトリーです。
Fシリーズジオメトリー比較
CE | CC | L/TOP | A [°] | B [°] | P/CS | T/HT | D/BB | R/FR | G/FL | REACH | STACK | ||
F5 | T700UD | 465 | 500 | 525 | 74 | 71.4 | 408 | 109 | 72 | 43 | 373 | 372.1 | 525.5 |
PRINCE | T700UD | 470 | 490 | 525 | 74 | 72.25 | 408 | 116 | 72 | 52 | 373 | 370 | 532 |
DOGMA F | T1100 1K | 465 | 500 | 525 | 74 | 71.4 | 406 | 109 | 72 | 43 | 373 | 372.1 | 525.4 |
2022PIRNCEシリーズがDOGMAに比べてやや高めのスタックとわずかに短いリーチで、レーサー志向のライダーに傾倒しながら若干ゆったり寄りもカバーする感じに比べ、DOGMA Fとほぼ同じジオメトリーのF9/7&F5は、DOGMAのDNAを色濃く共有し、レーサー志向に振り切った印象です。
Xシリーズジオメトリー比較
CE | CC | L/TOP | A [°] | B [°] | P/CS | T/HT | D/BB | R/FR | G/FL | REACH | STACK | ||
X3 | T600UD | 470 | 490 | 525 | 74 | 71 | 415 | 142 | 72 | 52 | 373 | 361.9 | 552.4 |
PARIS | T600UD | 470 | 490 | 525 | 74 | 71 | 415 | 136 | 72 | 52 | 373 | 367.2 | 537.2 |
DOGMA K10 | T1100 1K | 495 | 500 | 525 | 74 | 70.9 | 420 | 125 | 72 | 47 | 373 | 371 | 528 |
2023Xは幅広いニーズに応える快適なライディングポジションが可能な設計で、2022PARISより更に高いスタック、短いリーチが特徴的です。Fと比較するとその差はさらに大きくなり、FとXの明確な守備範囲の仕分けが感じられます。
Xシリーズは、DOGMA KからKOBE60.1やROKHなどのセンチュリーライドコンセプトモデルまで遡る系譜がルーツと思われます。この系譜の特徴はピュアレーシングラインより高めのスタックとより良い快適性ながら、基本性能は同グレードモデルのPINARELLOバイク同じという事が特徴です。
DOGMA F10がメインバイクだった当時のプロチームでもDOGMA K10を通常使用した選手がいたことは、快適性と運動性能をトレードオフしないバイクパフォーマンスを証明する事実と言えるでしょう。
サイクリングスタイルの多様化に合わせて、今まで以上に幅広いユーザーニーズ対応したXは、走る歓びをライダーと共有できるエンデュランスパフォーマンスを引き継ぎ、昨今のトレンドを取り入れた新しいPINARELLOというのが個人的な解釈です。
プロチームの活躍でピュアレーシングモデルが際立つPINARELLOですが、イタリアのトレヴィソにショップを構え、本社は今でも個人のオーダーを請け負い、プロ選手だけでなく一般アマチュアライダーとの直接的な関係を持ち続け、サイクリングの楽しさをより多くのライダーと共有するため、Xシリーズの系譜は続いてきたのではと思います。
では外観的にはどうでしょう
F:
外観はDOGMA Fとほぼ同じ印象ですが細部の違いからFシリーズ用の金型で作られていることが判ります。試しにシートステイとチェンステイの太さをDOGMA Fと比較すると僅かに細くなっています。
カーボンフレームは細く作られていても素材や積層で剛性は調整できると思いますが、外観的な違いも少なからずパフォーマンスに影響することが予想されます。
DOGMAシートステイ:約77.5mm
DOGMA チェーンステイ:約114mm
F9シートステイ 約74mm
F9チェーンステイ 約109mm
F9:その他の仕様
試乗車F9シートポストの型はDOGMA Fと同じ。
シートポストのヤグラは2022モデルと共用。
試乗車F9のシートのヤグラはDOGMA F8タイプ
ステム&ハンドルはTICR対応
ステムトップキャップはアルミ製
シートポストの固定バインダーは新型、工具はTORX T15
E-LINKは2022PRINCEシリーズと共用、電動&メカニカル対応
BB下バッテリーホルダー兼ワイヤーリードは専用品
X:
2022PARISのシルエットをTICRシステムへ進化させたような感じで、Fよりさらに細く繊細なカーブのシートステイと細いチェーンステイからは緩い感じのバイクをイメージしてしまいます。
X3 シートステイ約67mm
X3 チェーンステイ 約97mm
X3:その他の仕様
シートポスト/ヤグラの型は2022PRINCE/PARISと同じDOGMA F8型
シートポストの固定バインダーは新型、工具はTORX T15
E-LINKは初期型のDOGMA F10タイプ、電動&メカニカル対応
ステム&ハンドルはTICR対応
ステムトップキャップはアルミ製
インプレッション
F9
Torayca T900、Dogma Fと同等のジオメトリーとシルエット、メディア系インプレッション、前出の情報から期待値が高いモデル。
裏切る事なく軽い走り出しにむしろ、このぐらいは当然だよと思いながら、Dogma Fに寄せつつも、ライダーへの要求はDOGMAより優しく、気持ち良くペダリングさせてくれる。
ハイエンドピュアレーサーとして十分なスペックを感じさせるPINARELLO流の表現を堪能しつつ、短いながら登坂へ入ると、やはりDOGMA Fに近しい感覚なのでケイデンスは高めで、バイクに伝わる力加減を意識すると気持ちよく走ります。
自分の苦手な登坂のスピードはさて置き、プロバイクに振り切ったDOGMAでアマチュアライダーがその本質を楽しむには、正直その時の走行条件に委ねざるを得ない事実がDOGMAの高いハードルの一要因とするなら、歴代のTORAYCA T900カーボンのPINARELLOバイクは、DOGMAではハードルを感じつつもハイエンドを望むユーザーの心揺さぶる味付けのバイクというのが私の感想です。
F9はDOGMA Fのフィードバックでブラッシュアップされたピュアレーサー。グラフィックを誤魔化して、これはDOGMAだよと伝えられて乗れば信じてしまう程にDOGMAに近いのですが「近い」という表現はふさわしくないかもしれません。
腰を上げて下ハンで踏んだ加速感、巡行走行でのスピードの維持し易さ、走らせる意識を高めてペダリングしたその反応は感覚の先を行く、正にハイエンドバイクの応えが心地良く、それゆえF9はこれはこれで完成されたPINARELLOだろうと思うのです。
F5
走り出しや低速からの加速感も正直、最近の普通の感じで、「PINARELLOは何処へ行った?」くらいの第一印象でした。改めて走りながら足に掛かるフレームの反発力を意識してリラックスして走ることを心掛け、リセット。踏みすぎて疲れるというのは多々あると自覚があるからです。まず短い登坂は高目のケイデンス意識でゆったり走り、ペダリングでバイクに力が伝わる感じと走行感が良くなったあたりからの追い風、巡行走行で披露した速度維持とバイクの安定感はPINARELLOそのもの。
アッセンブルされたホイール重量の慣性力を利用するかのような巡行性能は、フレームの高いポテンシャル無しには有り得ず、向かい風の中少々ギアを掛け気味でも踏み抜き易い剛性感など、ケイデンスのスイートスポットの広さがこのF5のFシリーズたるオリジナリティを感じました。既にロードバイク所有ユーザーからエントリーユーザーまで、幅広いファンライダーが楽しめる一台と思います。ロードバイクの楽しさと自分の可能性をより広く感じてほしいバイクです。
X3
ショートリーチ、ハイスタックが売りだった2022PARISより更にショートリーチ、ハイスタック設計のX3。チェーンステイやシートステイの太さはFシリーズよりも見るからに細く、しなやかなそうなバック三角からこのバイクの性格をイメージし、速く走るよりも快適なライディングを心がけるペダリングでスタート。バイクに跨った瞬間に近く高いハンドル位置を確認するも走り出せば楽なポジションは受け入れ易く、窮屈な感じがしないことの方が少々驚きでした。重量感のある32Cのワイドタイヤも回り出せば25Cと比べてゴツゴツした感じが少ないことの方が気になり、今時のタイヤ事情を再認識。短い登坂はさすがにホイールの重さを感じるものの、速さを意識せず楽に行くなら軽いギアで回していけば快適な走行感は変わらないのです。ゆるーく入ったにも関わらず、追い風に押された巡行走行はF5と遜色無い速度域で向かい風もしかり、PINARELLOエンジニアリングに舌を巻くこととなるわけです。
速度域が上がれば結果はどうなるかわかりませんが、Xシリーズでもライディングを楽しむためのピナレロバイクであることに変わりはありませんでした。Xはハンドル位置が高く近い、緩いバイクではなく、ピュアレーサーより快適なポジショニングのPINARELLOであると感じることができました。
まとめ
今回のモデルチェンジをFシリーズという括りで見るとPINARELLOのピュアレーサーはユーザーの予算、好みのバイク剛性でどれを選んでもFシリーズのフィーリングを楽しめるそれぞれの個性を持ったPINARELLOバイクと言えると思います。
極みのDOGMA F、心揺さぶるF9/F7、走る楽しさを広げるF5
Xは、新しい自分を発見するX3 という感じです。
貴方ならどのPINARELLOを選びますか?